未だ誰も挑戦していない世界トップクラスのステージレース THE TRACK 521km。 2015年5月、日本人初挑戦し世界10位へ。 岩や砂ばかりの悪路、エネルギー不足による体力・体重の減少、日々悪化していく睡眠障害、極度の疲労による幻覚。 極限を越えてまで走り続けたゴールとは。
世界トップクラスのステージレースTHE TRACK 521km。
未知のレースに対し、いくら準備をしても準備をしても不安や恐怖は無くならなかったが、 “とにかくすべてを出し切るだけ。”
そう思い込んでスタートをきった。
レースはオーストラリア中央部。
初日からアップダウンがあり岩や砂の多い悪路のなか、8.5kgのザックを背負い走る。
日中は25〜30℃を超え、足は岩や砂にとられ、20匹以上のハエにまとわりつかれ、 走ることに集中できない。
何人もの選手が転倒して顔や膝に深い傷を負う中、1ステージを8位でゴールし、順調なすべりだしをすることができた。
このおかげで精神的にも余裕ができ、2日目以降も徐々に自分のペースを掴んでいくことができた。
だが順調とはいえ、毎日相当なエネルギーを使うのに対し、軽量化のために食料をギリギリにしているため、体力や体重は減っていくばかり。
また日々蓄積されていく疲労によって、夜は日に日に寝つけなくなっていき、睡眠による回復も徐々に望めなくなっていった。
そうした中でもコンディションを整えながらレースを続け、8ステージ(389km)を総合8位で終えることができた。
そして迎えた最終9ステージ(132km)。
今までで一番寒く風の強い日だった。
朝8時レーススタート。
距離は長いがとにかく今までで通りに。
そう思って走り続けた。
幾つものチェックポイントを過ぎていき、夜6時(スタートから10時間)68km地点まで辿り着くことができた。
ここで日が落ちてきたので、少し休憩をしてから、残り64kmは真っ暗闇の中をひとりで走りだした。
だが日が沈むと、状況が一変した。
張り詰めてきた緊張が緩んでしまったのか、今まででの疲労がドッとでてきたのか、一気に体力が激減した。
極度の疲労により走ることができなくなり、激しい空腹と眠気と寒気が襲ってきた。
とにかく前に進もうとするが、足がいうことをきかない。
そこで食料をとるが極度に眠くなる。
だがタイムロスになるので寝れない。
それに歩いているだけでも凍えるように寒い。もうどうすることもできず、走り続けるしかなかった。
そんな状況が10時間以上続いた。
辛すぎて辛すぎて、自然と涙が流れてきた。
途中何度かスタッフとも会うが、自分の状態がまともじゃなかったようで“止まって休め“と勧めてきたが、断り続け走り続けた。
ついには目に異常がきだした。
黒いはずの道が緑色に見え、様々な幻覚が見え始めた。
目がおかしくなると、平衡感覚も無くなり真っ直ぐ走れなくなっていった。
もう走っているか彷徨っているのか分からない状態だったが、走り始めて約25時間。
ついにゴール。
すべてを出し切った結果だったが、上位選手とは力の差を大きく感じた。
ただ走る力ではなく、人間としての力。
日々挑戦できているか、感謝できているか、学んでいるか。
その積み重ねの差を感じた。
この素晴らしい経験ができたおかげで、また先を見ることができました。
また次に向けてチャレンジしていきます!