-20℃の氷雪の世界である北極圏内スウェーデンにて、5日間230kmのレースに日本人として初挑戦。 手足が凍りつくような寒さの中、自分自身と戦い続け、辿り着いた総合3位。
舞台は北極圏内のスウェーデン北部。気温マイナス20度にもなる中でレースが行われた。
世界中から27人の選手が参加し、アジアからは自分ひとり。日本人初めての挑戦でもあった。
レース前日。選手全員でスタート地点まで移動をし、キャンプをした。そこで早速このレースの洗礼を受けた。
宿泊のために野外にテントを張り、雪の上にトナカイの毛皮を敷いて寝る。
だがこのトナカイの毛皮、移動中の吹雪のせいで凍っている。そして長さが短い。
これじゃ雪の上で寝るのと変わらないんじゃないか。だがこの環境で何を言っても仕方がない。
持てる装備で工夫をして夜を過ごした。
翌朝、体を震わせながらレースウェアに着替え、緊急用のGPSが選手全員に支給された後、いよいよレースが始まった。
初日は50kmだ。
いざ走り出すと震えていた体も徐々に熱くなっていく。
序盤で汗をかいてしまうと、後々汗が凍っていってしまうため、なるべく汗をかかないように、ネックウォーマーや手袋、ウェアなどを調整しながら走る。
真っ白の森の中や、凍った湖を進んでいく。だが雪の上は足がとられて思うように走れない。
ましてやスノーシューという重たい輪っかを履いているので、通常より何倍もの負担がかかる。
40kmを過ぎたころには、足が相当に疲労しきっていた。
でもあと10kmだ。エネルギーはもう少しで枯渇しそうだが、体温調節も上手くいっているし、このまま行こう。
だがここからは山越えだった。
今までとは打って変わって強風が吹き荒れる。
登れば登るほどに風が強くなり、前が見えなくなるほどのブリザードとなった。
僅かにかいていた汗のせいで手袋が凍っていき、手の感覚が無くなっていく。
そして視界も暗くボヤけ、まるで暗闇の中でライトを付けているかのように一点だけしか明るく見えない。
寒さで体に異常がきたのか。
そこで何とかエネルギーを戻すために食料を摂ろうとするが、手が動かなくて手袋のままでは食料を取り出せない。
仕方がなく背中で風を防ぎながら、手袋を脱ぎ、急いで食料をとる。
だがこの1分足らずの動作で、手の感覚はいよいよ無くなり、体も冷え切ってしまった。
早く水分をとって再スタートしよう。
そう思って水分ボトルをとると、入っているはずの水が出てこない。
なぜこんな時に。。。
中に入れていたはずのお湯が氷となっていた。
これで水分もとれなくなってしまった。
とにかく早く山を越えないと。
そうして2時間をかけて山を越え、スタートから8時間35分で初日のゴールを迎えた。
2日目、3日目と太陽に恵まれながらレースは進んだ。
だが雪の中を走り続けたせいで、日に日に疲労は蓄積されていった。
そして4日目、雪が吹き荒れる中での64kmとなった。
昨晩から雪が降り続き、コースには多くの雪が積もっている。寒さも一段と厳しく、鼻や顔が冷たく痛い。
そんな中、とにかくマイペースで進んでいく。
だが突如目に痛みがでる。痛い。目を開けてられない。
何分経っても痛みは治らない。止まって休みたいがタイムロスになるので止まれない。
目を閉じて涙をこらえながらも進んでいく。
ただただゴールを目指すだけ。そうして5時間が過ぎ、10時間が過ぎた。
そして辺りは暗闇となった。
ライトを照らすが、吹雪のせいでほんの少し先しか見えない。
景色もコースの路面状態も判断できないが、とにかくコースマークを見落とさないよう必死に目を凝らしながら進んでいく。
そしてとうとうこの日のゴールらしき明かりが見えた。
ようやく終わりだ。そう思った時だった。
突如地面に穴が空いた。
凍った湖の上を走っていたはずが、ここだけは氷水になっている。
まずい。これはまずい。こんなところにはまったら凍ってしまう。
だが出す足出す足がズボズボと埋もれていく。
それでも何とか抜け出そうと足を必死に動かし、穴に落ちることは免れることができた。
だが膝下は濡れて、ものの数十秒後にはシューズや足は大量の氷や雪が固まった。
凍傷になる前に早くゴールを。
幸いその後5分ほどでゴールとなり、事なきをを得た。
スタートから13時間以上もかかった、長い長い一日だった。
足は膨れ上がり、手の感覚は鈍く、目は痛むがもうそんなことは問題じゃない。
もうすぐでそれも終わる。
最後は今までで一番力強く走り、日の丸を掲げながら、笑顔でゴールを果たした。
無事にゴールの報告ができたこと、日の丸を胸に走れたこと、これが自分の人生だと思えるチャレンジができていること。
それが何より幸せです。
これもみなさんの支援や応援があってこそだと、心から感じます。
ありがとうございます。
また次の冒険に向かって、これからも走っていきたいと思います。